鏡物弐式

金椎響による電子記録

『楽園追放―Expelled from Paradise―』を視聴・読了しました

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●『楽園追放―Expelled from Paradise―』を視聴・読了しました

 

 水島精二監督、虚淵玄脚本による『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014年)、八杉将司著『楽園追放―Expelled from Paradise―』早川書房(2014年)、手代木正太郎著『楽園追放 mission.0』ガガガ文庫(2014年)の三つを以下で触れます。

 壮絶なネタバレを含みますので、未視聴・未読の方々は閲覧しない方がいいと思います。

 

<あらすじ>

 ナノマシンの暴走ナノハザードにより荒廃してしまった地球。人類の九八パーセントは、電脳パーソナリティと呼ばれるデータとなって仮想世界ディーヴァで暮らしていた。

 西暦二四〇〇年、そのディーヴァはフロンティアセッターと名乗る存在からクラッキングを受ける。

 事態を重く見た保安局は、二〇代後半という若さで三等官になったシステム保安要員のアンジェラにフロンティアセッターの捜索任務を命じる。

 クラッキングは荒れ果て、辛うじて残されたナノハザード以前に残された物資を使って細々とした生活を送っているはずの地球から行われていた。マテリアルボディと呼ばれる自身の遺伝子情報に基づいて作られた肉体を得たアンジェラは、機動外骨格スーツアーハンに乗り込むと地球に降下する。

 地球で彼女をサポートする現地協力者のディンゴは数々のミッションを遂行したベテラン。だが、素行不良で反抗的態度をとる、一筋縄ではいかない相手でもあった。

 アンジェラはディンゴと組み、フロンティアセッターに迫るのだが……。

 

<率直な感想>

 楽しめました。満足です。

 特に、迫力あるアーハンの戦闘シーンが気に入りました。宇宙空間での対無人戦闘機戦やニューアーハン対敵性アーハン部隊戦をはじめ、戦闘描写には思わず唸ってしまいそうでした。

 あの場面を観に、もう一度劇場に足を運んでいいと思ってしまう、渾身の出来だったのではないかと思います。

 特に、アーハンは球体から人型に変形することもあって、パッと見がお世辞にもかっこよくありません。

 ですが、動き始めると本当にかっこよく見えてしまうから本当に不思議――なのではなく、それだけ製作陣が工夫をしてかっこよく見せているんだと思います。……。嘘です、『蒼穹のファフナー』のマークザインみたいでかっこいいです(苦笑)

 

 グッズ買いたかったんですが、パンフレットすら売り切れ(泣) こんなにもグッズを欲しいと思った映画は最近なかったかもしれません。

 悔しいけれど、買うものがない以上は仕方がありませんので帰りに書店で小説版を買って帰ってきました。

 

 フルCGアニメ映画ですが、そこまでの違和感は感じませんでした。

 一方で、通常の見慣れたアニメ映画として作られていたとしたらどんな風になっていたのか、とても気になりますね……。

 

 そして、大いに不安だった「虚淵玄脚本」なんですが、意外にもこの作品はむしろ「わざわざ劇場まで出向き、お金を払ってまで絶望なんてしたくない」という方にこそ見てほしいと思う作品です。

 逆に、限りなくダークで救い不足、心折設計な黒淵ワールドを期待して観ると……少々期待外れかもしれません。

 でも、たとえばディンゴが「変わるんだ、アンジェラ。変われなかったおれの代わりに」だとかフロンティアセッターが「……これが、人間か」「やっと行ける、あなたのもとに」とか言って退場して、アンジェラが「ちくしょううう!!」と叫びながらも斃れてしまう『楽園追放』は見たくないよなーと……ってこれは黒淵というよりも水島監督の某作品でしたてへぺろ。だって、ネーナにロックオン、ティエリアにマネキンなんですもん(『ガンダム00』中の人ネタ)

 そういう意味では、白淵さんな『楽園追放』で本当に救われました。

 

 正直なことを言いますと、わたしはディンゴとフロンティアセッター、あとアーハン目当てだったんですが……視聴後はアンジェラが本当に本当に愛しい。

 序盤でアーハンをディンゴに壊された挙句売られてしまうとき、思わずアンジェラが口にした「わたしのアーハン……」という言葉が激しくツボに入り、強く印象に残っています。

 生真面目で頑張り屋で、終盤のある行動で窮地に陥るアンジェラの姿は見ていて辛かったです。

 そして、味わって読みたい小説版なんですが、DNAバンクを使って生まれたから、本当の両親がいないという描写が出てきて驚いております。

「自分はもっとやれる。(中略)わたしならできる。やってみせる。それがわたしの楽園にいる意義。わたしが生まれた意味。わたしのすべて。アンジェラはそう信じていた」(43頁)という描写を見たら、もう彼女のことが心配で心配で……。

  実はアンジェラのキャラクターヴォイス釘宮理恵さんということで「バカ犬~!」とか言いながらディンゴを蹴り飛ばしでもしたらどうしようとかなり本気で思っていて、いやはやなんだか本当に申し訳ない気分です。

 あと、戦闘の時に「こおんのおおお!!」って叫びながら鬼気迫る表情を浮かべるシーンには惚れてしまいそうです。CGとは思えない、あの形相は製作陣の執念を見たようか、そんな気がします。

 軍事ステーションへ侵入したときの、圧縮データに偽装したデフォルメみたいな姿や、フロンティアセッターの「仁義」のジェスチャーに吹き出す漫画的な描写は可愛かったです。

 

 そして監督&脚本のせいで死亡フラグがビンビン(?)の相棒ディンゴはやっぱりかっこよくて、本当に大満足でございます(満面の笑み) 「ここ地上でだって、食い扶持を稼げなけりゃ飢えて死ぬ。だがそれはただ単に、生きるってことと真面目に向き合わなかったやつの当然の末路だ。(中略)幸運か不運か、結局はそれに尽きる人生だ」(155-156頁)の台詞を確認したくて、小説版を購入したのは内緒です。

 フロンティアセッターって、本当にちょっとだけだけど『月に囚われた男』(2009年)のガーティに似てますよね。

 主要キャラであるアンジェラ・ディンゴ・フロンティアセッターの三者のキャラクターが立っていたからこその『楽園追放』だったと思います。

 

 クリスティンをはじめとする敵性アーハン三人娘や、保安局高官トリオ、アロンゾ、イザーク、ラズロ先生など脇役は本当に脇役で、せっかく超豪華声優陣なのだからもう少しくらい出番があってもいいんじゃないかと思う一方で、なかなか無駄のない映画だったとも思うのでした。

 

 個人的には『楽園追放』というよりも『楽園解放』といった感じでした。

 ただフロンティアセッターに助けられたのではなく、むしろ生まれ故郷に立ち向かっていく姿を見ると、はたして「追放」だったのかと思ってしまうのでした。

 彼女はフロンティアセッターの提案を受ける形で助けられましたが、意志を表明したのはアンジェラ自身です。小説版ではディーヴァに疑問を持ち、そんなディーヴァに全てを傾けていた自分を苦々しく思っている描写もあります。

 どちらかというと、彼女はディンゴやフロンティアセッターと出会うことで、はじめて自分の人生を歩むことができたのではないか、そしてそれは解放だったのではないかと思わずにはいられないのでした。

 個人的には、本来ならば頼りになる両親は本当は存在せず、捜査官になるべくしてなり、スピンオフでは露骨に「信念も目的も持たなくていい。ただついて来い」と言われるアンジェラは傍で見ていて本当に痛々しかったです。

 だから、そんなアンジェラがディーヴァと決別する選択したからこそ、決断力や勇気、過去との決別を恐れない強い意志を感じさせたのだろうと思っております。

 そういう意味では、「気が滅入るわあ」と言いつつも慣れ親しんだ電脳パーソナリティと知的欲求を満たせるフロンティアセッターではなく、「これから終わりゆく」と自らが評した地球を選んだことは非常に興味深いです。

 

<関係ないですが>

「これからディーヴァという最大のお得意先を失い、追われる身となったアンジェラを背負い込んだディンゴの明日はどっちだ!?」という感想を拝読しましたが、なんだかアンジェラが低く見られているみたいでもやもやしちゃいます。

 格闘戦では一六歳の身体で二〇代後半の自分を圧倒し、地球の重火器にも精通し、劇中最後で壊れているとはいえアーハンを牽引しているので(屑鉄屋行きだとは思うけれども!)まさにディンゴにふさわしいパートナーになれるのではないかと思います。

 まぁ、そもそもディーヴァ捜査官を出し抜く、知略に長けたディンゴですしね。ディーヴァのリンクを絶つことでアーハンを無力化したりとパワーバランスを壊しかねない技量の持ち主だと個人的には思ってるんですが……。

 

「全ての快楽を経験したと豪語するアンジェラだけど、七味唐辛子を入れたうどんに驚き、終盤でディンゴに抱き留められて恥じらうアンジェラたん可愛い」には「ほんまそれっ!?」という感じですね。おかげで、今猛烈にうどんを食べたいです。

 小説版では最後の最後ではALISEのイオニアンを口ずさむくらいですから、今後地球の色んなものに感化されてそうですよね。食べないって言ったサンドワームを食べ、ディンゴよりも歌が上手になってたりして……妄想が捗ります。

 

 実は、『楽園追放』を観るのが怖かったんですよね。

 以前、フルCG映画の『EX MACHINA』を伊藤計劃氏が酷評し、しかもその指摘がごもっともで……のほほんと満足していたあのときの自分がかなり恥ずかしかった。

 その苦い思いが再び浮かんできて、怯んでいなかったと言えば嘘になるという感じでしたね。別に、『EX MACHINA』と今回観た『楽園追放』は全然関係ないんですが。

 「コンピュータが人間疎外のメタファだったりするのやめませんかもう!」の『EX MACHINA』を見れば……『楽園追放』は凄く頑張ってたよね、計劃先生!?

 

 ところで、『楽園追放』は続かないんですかね?

 なんか、凄くよく纏まっていた「第一部」という感じがして、「次作ッ!? 期待せずにはいられないッ!!」んですががが……。

 来年に第二部放映とかないかなあ(チラッ)

 ないならないで、誰か二次創作を書いてほしいんですががががが……(切実に)

 

<小説版>

 

 八杉将司『楽園追放―Expelled from Paradise―』(2014年)は納得のいかなかった場面の補足がなされていて、よくまとまっています。

 ただし、「完全ノベライズ」とありますが、戦闘シーンなどの躍動感や出演陣の熱い演技は是非とも映画館で味わっていただきたいです。

 早川書房から出版されていますが、ラノベ並に読みやすい文章で書かれています。

 また、映画だとちょっとしか出番のなかったクリスティンの描写をはじめ、小説版では映画版よりも少しだけ詳しく描かれています。

 最初に映画を観ていて『楽園追放』が大好きな人が購入する分には全然問題ないと思いますよ。

 

<小説版スピンオフ>

 

 手代木正太郎『楽園追放 mission.0』(2014年)は、挿絵がキャラクターデザインを担当した齋藤将嗣氏です。

 アンジェラが本当に可愛いので、彼女が大好きな人はぜひ読みましょう!! あと、カラーページにボディスーツがちょっぴりビリビリなアンジェラさんの2ページ絵がありますよ。

 逆に、ディンゴやフロンティアセッター、アーハン戦目当ての方はアテが外れてしまうと思います。アンジェラ無双も期待しない方がいいかも。

 映画版『楽園追放』でディストピア感が足りないと思った方にもおすすめです。

 早川書房版ノベライズよりも文章量が多く、こっちの方がより早川的なのでは?

 メモリにゆとりがあれば、バーチャルイメージをいじれる。胸の大きさもメモリ次第だったとは……(真顔)

 メットを見て、「ああっ、ディンゴが本編でこういう行動をしなくて本当に良かった」とつい思ってしまったり……。