鏡物弐式

金椎響による電子記録

『仔猫は春の季語』という小説を書きました

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(写真:京都御苑母と子の森「森の文庫」)

 麻婆さんの企画する「カレンダー小説企画」に参加致しましたことを、ここにご報告させて頂きます。

 リンク先のサイトでも詳しく解説しておりますが、この企画では架空の書店”四季ノ国屋 超時空支店”が企画を打ち出し、書店員達が各月に合う小説を探しに各々の作家の世界へと飛び込んでいきます。そして、その旅の出来事を「小説」として持ち帰ってきた、という設定です。持ち帰ってきた小説が一二の物語として、ホームページに公開されている、という訳です。

 わたしはそのなかで、三月『仔猫は春の季語』を担当致しました。概要は以下の通りです。

 

◇題名
『仔猫は春の季語』
◇ジャンル
 現代、実在する場所を舞台にした恋愛小説。
◇あらすじ
 時は三月。場所は京都。「わたし」は二月に高校を無事卒業し、大学進学を控えている。季節外れの雪が降るなか、京都御苑で同じ高校に通っていた富士見藤乃(ふじみふじの)と会う。藤乃と過ごす時間は僅かだというのに、「わたし」は彼女との距離を縮めることができずにいた。そして、彼女は「わたし」に頼みたいことがあるらしい。京都御苑に出没する「裏文庫」とは……。

◇企画URL

 http://www7b.biglobe.ne.jp/~marboh_plus/index.html

 

 この小説はサイトの方から無料で読むことができますので、ご興味・ご感心のある多くの方に読んで頂けると嬉しい限りです。

 

※追記

◇きっかけ

 今年の一月中旬、麻婆さんから「『哲学的な彼女』企画に参加した方々と一緒にウェブ小説の企画を立てているのですが、参加しませんか?」と誘われたのがそもそものきっかけです。

 一月から一二月をモチーフに、共通項を設けて一二の掌編を揃える、というものでした。企画に参加している方々がわたしにとって馴染み深い作家さんばかりでしたので、これは参加せずにはいられない、とその時は思いました。

 ただ、第一回「哲学的な彼女」企画でわたしが投稿した作品群、あるいはそれ以降に発表してきた作品を見て頂けるとわかると思うのですが、わたしは大体四万字くらいの分量を目安に小説を書いていましたし、中学時代にショートショートに挑戦し挫折したきっかけから、文字数の制約のある掌編小説を書き上げる自信、限られた文字数の中で面白さを追求する技量がはたして今の自分にあるのか、不安がなかった訳ではありませんでした。

 今振り返ると、想達さんの依頼でノベライズさせて頂いた『獣と少女』も大体四万字程度書いていますが、当初はもっと少ない分量で書き上げる予定だったんですが、具体化していくなかで、「内容を妥協するくらいだったら、多少の文字数の増加は認めます」という想達さんのご厚意に乗っかってしまったところがあり、企画に参加することを表明したものの、心の奥にこべりついた不安が晴れるまでには時間がかかりました。

 他にも、「締切に間に合わなかったらどうしよう……」など色々な不安はありましたが、麻婆さん曰く「締切は緩い予定です」という言葉を安易に信じておりました(苦笑)

 その後、月の割り当てと二作品担当する作家さんなどを取り決める段階になり、わたしは当初から三月に立候補して後に認められました。その時点ではひな祭りと卒業式を漠然と考えておりました。最悪、書く内容が何も思い浮かばなくても「『卒業式のあの日に、告白できなかった後悔』みたいなものを、普段の作風で書けばきっと皆さん、赦してくれますよね?」と浅はかに思っておりました。

 その頃、五月に京都へ行く予定だったので、玄光社の『KYOTO図書館紀行』に目を通していて、せっかく書店や書店員が出てくるのだから、本にまつわる話にできればいいな、とこれもまたぼんやり考えておりました。京都御苑「森の文庫」もこの本ではじめてその存在を知りました。

 実際に、京都府立図書館やこの京都御苑「森の文庫」に足を運んだ時、自分の頭のなかで漠然と漂っていた、今まで形にならなかった気体のようなアイディア達が一斉に集まり、連なっていて、どうにか小説という形にできそうだと感じました。それまでは、たとえば新幹線に乗っている間、「今まで通り、横浜を舞台にして、二度と小説を書かないと決めた女の子が再び小説を書くまでの話」などを考えては、なかなかいい小説になるという予感に欠けて、実際に手をつけられない状態が続いていました。

 京都の旅を終えて、時に日常生活が忙しくなるなかで書き上げる作業は、手探りで、今の形に出来上がったのも半ば偶然の産物です。

 締切は六月末日でしたが、作成に取り掛かったのは一カ月半くらい前で、締切より二週間弱前には完成し、それ以降は推敲を重ねる感じだったので、当初抱いていた不安はどうにか杞憂で終わってくれました。

 個人的には、もっと文字数があれば他の描き方ができたのかもしれませんし、おそらく他の描き方をしたのだと思うのですが、いざ今の形で書き上げてしまうと、思いの外「他の描き方」というものが思い浮かばない、ピンと来ないという、ちょっと不思議な心境です。何はともあれ、悔いはなくその時の自分の思いの丈を作品にぶつけきれたと(現時点では)思っております。

 七月は企画参加者で読み合って、誤字脱字の指摘を行う作業があったのですが、当初わたしが想像していた以上の出来に驚き、一夜にして全ての作品を読んでしまいました。参加者の皆さんのことは、第一回・第二回「哲学的な彼女」企画を通じて、「●●さんはこんな作風で、こういった作品に仕上げてくるだろう」という予想が出来ていたのですが、そういった期待をいい意味で裏切ってくれたのは、望外の嬉しさでした。

 何よりも、2010年に出会った皆さんと、三年後に声を掛け合ってまた作品作りをすることができたことが、まるで奇跡のようで非常に感慨深い限りです。マイケル・サンデルや『ニーチェの言葉』に端を発した哲学ブームも一段落つき、二年連続で開催された「哲学的な彼女」企画も第三回はなく、このような皆で集う機会に今後は恵まれないだろうという疑念を払拭し、こうして形になったことは本当に喜ばしいことだと思います。

 最後に、わたしの作品を読んで下さった全ての方に感謝しております。わたしが今もなお未練がましく小説を書いているのは、ひとえにわたしの作品を今でも心待ちにして下さる読者の方々の存在があってこそです。

 また、今まで企画を築き上げ、そして作家陣を支えて下さった麻婆さんをはじめとする企画に携わった皆さんにも、感謝の気持ちでいっぱいです。そして、作品は書き上げましたが、むしろ企画はこれからだと思いますので、今後ともよろしくお願いします。